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研究内容 

生殖細胞系列は特殊な細胞系列であり、最終分化産物である精子や卵子は受精することにより再び個体発生を始めることができます。細胞分化に伴い分化可塑性が減弱していく体細胞系列と比較すると、その特殊性は際立っています。もともとひとつの受精卵からはじまる個体発生の過程で、どのようにしてもう一度受精卵をつくりだせる精子や卵子になるのでしょうか?それを明らかにするためにひとつひとつ実験的な証拠を積み上げるのが我々の仕事です。もちろん生殖細胞の発生過程には様々な局面があり、我々だけですべてを解決するのは不可能です。我々は以下の研究を通して、生殖細胞の理解を深めるとともに、その異常と疾患との関わりについて明らかにしていきます。また体外培養における生殖細胞の分化誘導系を構築することにより、生殖細胞分化の理解を深めるとともに産業的に有用な生殖細胞の産生を目指しております。

生殖細胞系列の発生・分化様式の概略

生殖細胞の発生・分化様式は動物種によって異なりますが、ここでは我々の研究対象であるマウスについて述べます。すべての生殖細胞系列の源である始原生殖細胞(Primordial Germ Cells: PGCs)は胚齢6日目胚にある多能性細胞集団エピブラストから分化してきます(図1)。PGCsはその後おもに後腸を移動して、将来の精巣もしくは卵巣である生殖巣に到達します。PGCsは移動期までは性別による分化過程の相違はほとんどありませんが、雌雄それぞれの生殖巣の中で性特異的な分化が始まります。雌では直ちに減数分裂が始まり卵母細胞に分化するのに対し、雄ではしばらく細胞分裂を繰り返した後にG1期で休止して前精原細胞になります。卵母細胞はその後顆粒膜細胞と莢膜細胞に包まれた卵胞組織で発育したのちに排卵されて受精可能な卵子となります。一方雄ではG1期で停止いていた前精原細胞は精細管中で精原細胞となり、その一部は精子幹細胞となります。精細管内では継続的に精子幹細胞から、セルトリ細胞との相互作用により減数分裂を経て精子が作られます。

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受精卵は卵割を繰り返すことにより内部細胞塊をもつ胚盤胞になる。胚盤胞の内部細胞塊は着床後にエピブラストとなる。胚齢6日目のエピブラストの一部は胚体外外胚葉から分泌されるBMP4により始原生殖細胞(PGCs)に分化する。この時期に生殖細胞系列と体細胞系列が分岐する。後腸を通り生殖巣に移動したPGCsは周囲の体細胞に先導されて性分化する。雌のPGCsは直ちに減数分裂に移行し(卵母細胞への分化)、雄のPGCsは細胞周期をG1で停止させる(前精原細胞への分化)。出生後の雄では精子幹細胞が確立され一生を通して精子形成を行う。雌では原始卵胞が確立され、その一部が周期的な卵子形成にむかう。図中に示してあるように、生殖細胞系列には様々な特異的な発生過程が含まれる。これらは全能性を再獲得する上で重要な発生過程であると考えられている。

 

PGCsから卵母細胞への分化メカニズム

先述したように雌のPGCsは生殖巣に到達したのちに減数分裂にはいります。いうまでもなく減数分裂は生殖細胞特異的な現象であり、1倍体の配偶子をつくるために必須の過程ですが、どのようにして減数分裂がPGCsに誘導されるかについては不明な点が多くあります。これまでの研究により減数分裂への移行にはレチノイン酸を介したシグナルが重要であると考えられていますが、その詳細は明らかではなく、またその他のシグナルも関与していると考えられます。PGCsは生殖巣に到達すると効率良く減数分裂に移行することから、生殖巣の体細胞がなんらかのシグナルをだしているものと考えられます。我々はPGCsの減数分裂への移行をモニターできるシステムを構築中です。さらに生殖巣の体細胞の遺伝子発現を詳細に解析中で減数分裂移行シグナルの候補を検索中です。これらを組み合わせるによりどのようなメカニズムでPGCsが減数分裂を開始するのかについて調べようとしています。

 

体細胞の性と生殖細胞の性

PGCsの性分化(つまり卵母細胞と前精原細胞のどちらに分化するか)において生殖巣の体細胞が先導的な役割を担います。クラシカルな培養実験によって、雌の生殖巣の細胞と培養すると雌のPGCsのみならず雄のPGCsも減数分裂に移行し(つまり卵母細胞になり)、その逆に雄の生殖巣と培養すると雄のみならず雌のPGCsもG1期で停止する(つまり前精原細胞になる)ことが知られています。ところが、最初は生殖巣の性に従いますが、最終的に雄のPGCsから卵子の産生効率は非常に低く、雌のPGCsからは精子はできません。これはなんらか生殖細胞自律的なメカニズムがあると考えられます。我々は生殖細胞の性について独自の培養系(後述)を用いて明らかにしていきます。またこの研究は雌の性染色体(XX)のひとつが欠けるクラインフェルター症候群(XO)における卵子形成の異常の原因についてもアプローチできるものと考えています。

 

原始卵胞の形成機構の解明

体細胞分裂によって個体のほぼ一生にわたり維持される精子幹細胞とは異なり、卵母細胞は出生時にはすべて減数分裂の過程にあります。つまり卵母細胞の数は出生時にすでに決められていて、その中から少しずつ卵子形成に用いるので、その数は継続的に減少すると考えられています。卵巣中にある最も未熟な卵母細胞をもつ卵胞は原始卵胞とよばれ、卵子のストックとして静的状態を保っています。我々はどのようにしてこの静的状態が確立されるかについて研究を行っています。これまでの研究により胎仔性の卵胞組織においては原始卵胞の静的状態を保つことができないことがわかってきました。我々は胎仔性の卵胞組織と新生仔性の原始卵胞を比較することにより、原始卵胞の静的状態を保つメカニズムが明らかになるのではないかと考えております。原始卵胞の静的状態が破綻すると卵子のストックが使い果たされることになり、周期的な排卵が起きません。すなわちこの異常は女性の早発閉経の原因になると考えられています。加齢に伴う卵子の量的および質的変化は不妊症の大きな原因であり、その究明に一石を投じたいと考えております。

体外再構築系

当該研究分野において、体外培養系による生殖細胞系列の発生過程の再構築と配偶子の産生は、発生・分化メカニズムを解明するツールとなるばかりでなく産業的にも有用であると考えられます。我々もこの課題に取り組み、数年前にマウスのES細胞やiPS細胞からPGCsを分化誘導する培養系を構築しました(図2)。この体外培養系の構築により、これまでに様々はPGCsの発生・分化に関するメカニズムが明らかになってきました。当研究室ではその培養系を深化させ、特に雌の生殖細胞系列の発生過程を再構築しようと考えています。先述したように減数分裂の移行機構や原始卵胞の形成過程にはまだまだ不明な点が多く、それらの解明のためのツールとして体外分化誘導系の開発を行っていきたいと考えています。

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ES/iPS細胞をActivinA, bFGF, KSRで培養すると、2日後には扁平なエピブラスト様細胞(EpiLC)に分化する。EpiLCを培養皿から剥離後、凝集培養するとともに、BMP4をはじめとする種々の成長因子を投与するとPGC様細胞(PGCLC)に分化する。PGC特異的に発現するレポーター遺伝子を用いると、分化したPGCLCを可視化(緑)できる。これ以降は個体への移植が必要となり、PGCLCを自身の生殖細胞をもたない新生仔の精巣の精細管内に注入すると、精子に分化する。得られた精子は顕微授精により個体に発生する。一方、PGCLCを胚齢12日目の雌の生殖巣の細胞と凝集培養した後に、雌マウスの卵巣被膜下に移植すると未成熟卵に分化する。これらの未成熟卵から得た成熟卵は体外受精により個体に発生する。

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